僕が学生時代に新興宗教に勧誘された話をしよう

 僕は学生時代、新興宗教の勧誘を受けたことがある。

 5W1H的に簡潔に記しておくと、友人に食事に誘われ、のこのこついて行った僕は、ファミレスで、宗教の勧誘に遭った。

 これについてちょっと書いていこうと思う。

 まあ、Togetterで顕正会という宗教に勧誘された話が挙がっていたので、それに触発された形だ。僕が勧誘を受けた宗教がそこかどうかは分からないけれど。

 みなさんに注意喚起というか、宗教自体に罪はないのだろうけれど、過激な宗教やその信者には気を付けてください、ということだ。

 

目次

 

ことの始まり

 大学時代、僕には普通に友達がいた。けれど、そこまで遊んだりはしていなかった。基本インドア派な友人達だったし、仲の良い人からそこまで仲の良くない人もいる中、複数人で遊ぶのはちょっと面倒だったりしたわけだ。

 そんな僕だけれど、ある日、まあ授業時間が合えば話す程度に仲が良い男友達から、「休日に一緒に飯でも食いに行かないか?」とLINEが送られてきた。僕は一も二もなく、「OK」の返事を返す。

 少し嬉しかった。休日に友人に誘われるなんて滅多になかった。それに、授業時間が合えば話す程度でそこまで「仲が良い」とは言えなかった友人から食事に誘われたのだ。

「ああ、いつも素っ気ないけれど、食事に誘ってくれる程度ではあるんだな」

と、それから起こることなど想像もしていない僕は、そんなことを思いながら休日を心待ちにしていた。

 そして、約束の休日。

 友人の車に乗せて貰って(ここ重要)少し足を伸ばした場所で遊んでから、食事をとるためにファミレスへと入った。

 ファミレスにて、食事もそこそこに談笑していると、彼は唐突に言った。

「あれ、遅いな。実は一人、友達を呼んでるんだけど・・・」

「???(こいつ何言ってんだ?)」

 僕はちょっと彼の言っている意味が分からなかった。普通断りくらいいれるだろう、友人を呼ぶならば。唐突に「呼んだ」とか言われても困る。

 けれど、その唐突さも今にして思えば納得である。

 

あれ、これなんか怪しくないか?

 この時点で身構えはしていた。だって、唐突に誰かも分からない人を「呼んだ」とか言うのだから、常日頃から他人に対する警戒を怠らない僕の警戒心は爆上がり。

「あ、こっちです」

 彼が店の入り口に向かって片手を挙げながら言った。

 入店してきていたのは、見た目いかにも営業で回ってますという感じのワイシャツ姿の男性だった。社会人かよ、と僕は心の中で思いながら、目の前の友人と入店してきた男に対する不信感を募らせていた。

 ここで、登場人物が男二人になったので、仮に僕の友人をトモ君入店してきた男性をワイさんとして分かりやすくしておこう。「友」君とワイシャツの「ワイ」さんだ。

 ワイさんは「おお」と小さくトモ君の言葉に応えて、僕の対面の席に座った。ちなみに、席の状況は僕の対面にトモ君とワイさんがいる形。

「やあ、どうも。トモ君とはちょっとした知り合いのワイです。よろしく」

営業マンらしいはきはきとした声色で言って、ニコニコ顔を僕に向ける。

 言うまでもないが、僕はこの時、既に警戒心MAX。ワイさんはパッと見普通の社会人だ。むしろ、こんな場でもなければ、明るくて好印象を持つこと請け合いだったろう。

 僕は基本的に、会話中は素の感情を表に出さず、常にニコニコ顔で会話をしながら頭の中で次の算段を立てる人間だ。要は詐欺師体質である。

 まあ、そんな僕の性格だから、こんな中でもニコニコと応対していた。表情こそ温和だけれど、トモ君に対する不信感からか腹の中に冷たい水が入り込んでくる感覚を覚え、頭はもう「次に相手がこんな行動をしたらこうしよう」と考えだしていた。

 そんな折、ワイさんは言った。

「実は僕たち、ちょっとキミにお勧めしたいことがあってね」

 あまり覚えてはいないが、こんな感じに唐突に、けれど、とてもフランクに話してきたと思う。

 ・・・あ、これヤバいな

 僕は瞬時に悟った。

 奇妙な唐突さ。初対面の人間に対する底抜けたフレンドリーさ。これまで友人とまともなコミュニケーションを取ってきた人間なら、この違和感に不信感を覚えないはずがない。

 

絶体絶命の状況、水面下の攻防と僕の取った行動

 そのヤバさを悟った瞬間、僕はスマートフォンを取り出して、予定を確認するフリをしながら録音ボタンを押す。これはほとんど考えての行動ではない。現代的な危機回避の本能に近い、流れるような動作だ。

「ええと、で、何ですか?」

 そんなことを言いながら、僕はスマホを自然に見えるようテーブルに置いた。無論、相手の声を録音しやすいようにだ。この時点で完全に、宗教勧誘か、マルチ商法か、その類を想定していた。

「宗教なんだけど、これが凄いんだよ」

 案の定。大当たり。これでこそ録音の甲斐があるというものだ。

 そこからの会話は書こうとすれば全ては書き切れない。それも、会話というよりは一方的なトモ君とワイさんの「宗教スゴイゼ!」トークだった。

「僕の先輩の○○さん、事故に遭ったんだけどなんと無傷!」

「僕も実際、事故した時にこんな奇跡が!」

「信者になった途端、なんと白血病が回復!」

 とまあ出るわ出るわ「奇跡」推しの言葉。

 バカじゃねえの闘病してる白血病の患者さんに謝れよ、ど阿呆かよ。と心の中で思いながら、僕はニッコニコ顔で「へえ、凄いですねぇ」と相槌を打っていた。

 あれ、否定とか批判しないの?

 いや、だって、怖いじゃないか。こっちは一人、あっちは二人。下手に否定して怒らせたり、変に話がこじれたりしたら大変だ。危険な宗教だったら、引きこもり腐れ大学生の僕など一捻り。話を合わせるしかない。

 それに、これが最も肝要で、この時点で焦っていたのだけれど、僕・・・

 トモ君の車に乗せて貰ってきたから、帰りも乗らなきゃいかんのよな!!

 あれ、絶望しかなくね? 俺ェ・・・

 そして、彼らからこの言葉。

「ほら、いいでしょ? 近くにお堂があるから、今から行こうよ。神具と教本あげるから、ちょっと祈るだけでいいから」

 行ったら終わる・・・!

 そして、生半可な拒否では帰りがけに車で連れていかれる・・・!!

 冷汗が出そうだった。焦っていた。これまでにない、焦燥感。

 そんな状況下で僕が取った作戦はこれだ。今考えれば阿呆だけれど。

『全力! 時間がないから早く帰らせろ作戦』

 以下、作戦内容。

 「あー! 今日もう2時か! いや、俺2時までのつもりだったからなー! この後用事あるんですよ、もうほんと絶対外せないので、こうほら、僕時間超えたりするの絶対許せないので! あーもうさ、トモ君もさ、こういう流れになるなら事前に言っとけよマジで、ほんとそーゆーとこさ、言ってくれれば時間取ったのにさ! あり得ないよ今度から気を付けろよ! ほんと今日は帰るから! な!」

 以上。

 単純だ。全力で時間がないことを推して推して押しまくる。何を言われても

「あーもう時間ないんでーほんと僕そういうの許せないんで! 事前に言っとけよ! 計画ってもんがあんの!」

と言って聞かない。

 この作戦を取るに至った経緯として

・車に乗せられてきた以上、早急に帰らねばならない感を出さねば帰りに連れていかれる

・生半可な拒否では押し切られる。全力だ。

 以上の二点から、この作戦に打って出たわけだ。

 結果、これは功を奏した。

「じゃあ、じゃあ、また今度ね! 今度しよう!」

 と言わせて、僕は作戦の成功を悟った。僕はスマホを急いで取り上げ、急かすようにトモ君に「帰ろう」と言い、ワイさんに別れを告げて帰路に着いた。

 帰り際、隣の席にの男性が訝しげな顔で僕たちを見ていたことをはっきりと覚えている。

「また今度」と言わせれば、恐らく、僕の心証を悪くなるようなやり方、たとえば帰りに強引にお堂とやらに連れて行くことなどはないだろう、と僕は考えていた。だって、「今度」があるのであれば、今ここで心証を悪くするような行動は逆効果でしかないからだ。

 一応、帰路、妙なところへ連れていかれないか外を見張りながら、

「ほんと、今度からはちゃんと言えよな」

とトモ君に不満を漏らし、牽制。まあ、その心配は必要がなかったけれど。

 つまり、僕は無事、家に帰ることができた

 

競り勝った結末

 結末。僕は帰路、トモ君に対する言い知れぬ「不信感」に加えて「寂しさ」を感じていた。だって、そうだろう。

「友達だから誘われた」と思って少し嬉しかったのに、実際は「宗教勧誘という目的のために誘われた」のだから。裏切りも甚だしいじゃないか。

 友情をビジネスに変える。マルチ商法によくあるソレに似ている。友情は、何かに変えてはいけない。

 確かに友情は何かに簡単に変えられる。ビジネスにも、宗教の信者にも。けれど、変えようとしてしまったら、元には戻らない。たとえ元に戻ったように見えても、必ず、それは脆く、弱く、友情に見えてその中に不信感の宿る、疑心暗鬼が前提の友情となるだろう。

 してはいけない。してはいけないことをした。キミは。

 トモ君にそんな寂しさと、そして、消えぬ不信感を持ち、何とも言えない気分で僕は自室のテレビとPS4に電源を入れた。なんとか、気分を紛らわせたかった。

 

僕と彼のその後

 僕は、彼と連絡を絶った。

 帰ってからすぐにLINEで次の予定を立てようとするトモ君から連絡がきたが、無視。無視。無視。

 数日もすれば、彼からの連絡は来なくなった。この諦めの良さ、こうなることは分かっていたのか。経験から、わかっているのだろうな。

 後日、彼と大学で会う機会があったが、それとなく会話はした。店での話はしない。触れないようにしているようにも見えた。やはり、分かっているんだろう。

 宗教自体は悪いことじゃない。危険でなければ、悪くはない。しかし、友情を逆手にとって信者を増やそうとしたりしては、それはダメだ。それは友人を愚弄している。

 そんな騙すような宗教が危険でないわけがない。あり得ない。

 だって、「人を騙すな」なんてメジャーな宗教では当たり前のことじゃないか。そんな教義すらないのか。それすら守れない信者なのか。どちらにせよ、こんな手法を使っていては知れるよ、底が。

 

以上、僕の新興宗教勧誘体験記でした。

いざという時のため、この録音したデータはパソコンに移して保存しておいた。数年たった今でも、そのデータはDドライブのフォルダに眠っている。