【百合漫画】「やがて君になる」4巻 いよいよ動き出す生徒会劇、脚本、合宿を通して変化していく先輩の心と恋愛模様
はい、「やがて君になる」4巻のレビューです。
やが君の四巻は、第二巻で物語の主軸として示された生徒会劇について、いよいよ物語が進んでいきます。
生徒会劇は二巻で示された通り、七海燈子先輩にとっては「姉ができなかったこと」であり、強い思い入れのあるものです。
今回は、そんな生徒会劇の脚本が完成し、練習が始まっていきます。
ですから、三巻ではあまり登場シーンのなかった燈子が、四巻では生徒会劇の練習を通して揺れ動いて行く様が描かれています。
三巻は侑と沙弥香の燈子に対する気持ちがメインに描かれていましたが、四巻のメインは燈子が自分自身の気持ちに揺れ動くところとなります。
練習の中では合宿もあり、そんな中で侑と沙弥香も燈子の感情の変化に当てられて少しずつ変わっていきます。
以下、ネタバレ注意の詳細レビュー。
↓前巻ネタバレレビュー↓
↓次巻ネタバレレビュー↓
目次
1. いよいよ完成した脚本
第四巻の物語の始まりは、主人公の小糸侑が友達である叶こよみから頼んでいた生徒会劇の脚本を受け取るところから始まります。
以下、あらすじ
こよみから脚本ができたことを聞き、それを受け取った侑。
「役者に合わせて人物を作る」と言っていたこよみの言葉を思い出しながら、侑はその脚本を読んでみることに。
その内容は、記憶喪失の少女が元の自分に戻りたいと思いながらも、誰になって生きていけばいいのか苦悩する物語。
つまり、まるで燈子のような少女の物語。
少し経って七夕の日。
生徒会室でこよみを交えた会議が行われました。
会議の中で主人公の少女役を燈子、そして、その恋人役を沙弥香が演じることに決まります。
そして、燈子のひとこと。
「夏休みに合宿をしませんか!」
燈子が夏休みに合宿することを提案し、夏休み中に2泊3日の合宿で劇の練習をすることになりました。
その日の帰りにドーナツ店で勉強をする侑と燈子。
「(恋人役が)佐伯先輩なら誰も何も言わないでしょ」
「侑も何も言わない?」
「言いませんよ 何も」
話題は合宿中に燈子が妙なことをしないかという話に。
燈子は、気持ちを抑えようと思っていることを侑に話します。
「侑に嫌われたくないから」
以前に名前で呼ぶことを決めた侑と燈子でしたが、燈子は「侑」と呼ぶのに対して、侑は「七海先輩」としか呼べません。
(わたしからは何もできない)
(先輩はいつもわたしのこと好き勝手ふりまわすくせに)
そんなことを思って、侑は言いました。
「ずるい」
前半ここまで。
前半は、生徒会劇が動き出したことと合宿を開催する経緯が描かれています。
まず、こよみが有能。
脚本は、燈子の詳細(甘えるところとかは当然聞いてない)を聞いたわけでもないのに、その脚本の主人公は燈子のように色んな仮面(ペルソナ)を持っている少女。
その少女が記憶喪失になってしまい、色んな人から見た自分を聞きながら、自分が本当はどんな自分だったかを思い悩むストーリー。
もちろん、主人公は燈子になります。
なんとはなしに脚本ができていますけれど、こよみは生徒会劇を通して燈子を変える間接的な重要人物なのですな。
そして、その他の配役の中で「沙弥香が少女の恋人役」となったところ。
もちろん、沙弥香が燈子に恋心を抱いているなんてこよみは知りません。
こよみ、有能すぎ。
会議の最後に、相変わらず振り回し体質な燈子さんは事前に計画していたとはいえ、ここで「合宿をしよう」と生徒会の面々に提案するわけです。
帰り道、侑と燈子の会話もこれも良い。
沙弥香が恋人役になったことを燈子はちょっと気に掛けているけれど、侑はまったく気に掛けていないのが二人の思いが表れていて良いですね。
そして、前半最後のところ。
(わたしからは何もできない)
(先輩はいつもわたしのこと好き勝手ふりまわすくせに)
これ、不満と言う形で偽装しながらも、侑も燈子に対してぶつけたい思いがあることが暗示されています。
それが侑にとってはできないことも。
2.複雑な合宿練習
時は進んで、生徒会全員参加の合宿が始まります。
ここで燈子の心境に変化が訪れることになります。
以下、あらすじ
合宿が始まり、劇の練習が始まります。
脚本の終わりは、少女が最終的に恋人の前で演じる自分を自分だと選ぶ結末でしたが、これに対してこよみが少し悩みを見せました。
そんな一日目の夜。
侑と燈子、沙弥香の三人でお風呂に入り、同室で寝ることに。
侑以外は「もし三人でなかったら・・・」と悶々と考えてしまいますが、結局は何事もなく翌朝を迎えました。
翌日、演劇の練習を見てくれるという市ケ谷さんがやってきます。
市ケ谷さんは燈子の姉の同級生で、生徒会にも入っており、燈子の姉のことを良く知っている人物でした。
練習の後、市ケ谷さんの帰りがけに燈子は姉のことを尋ねます。
「姉は生徒会ではどんな人だったんですか?」
すると、市ケ谷さんの答えは意外なことに、生徒会の仕事を役員に任せきりだったり、宿題を手伝ったりといった、「優等生ではない姿」を語りました。
「私が知ってる姉は、なんでも自分で完璧にこなせて、憧れでした」
そういう燈子に市ケ谷さんは言うのでした。
「澪(燈子の姉)と七海さんは あんまり似てないな」
ーーー時は進んで夜ーーー
生徒会の面々で花火をしていました。
はしゃぐ一年生をよそに階段に座っている燈子に、沙弥香が線香花火を持って話し掛けます。
落ち込んだ様子の燈子を見かねて沙弥香は尋ねました。
「市ケ谷さんと何を話したの? ・・・燈子のお姉さんの話?」
「・・・沙弥香知ってたの 姉のこと」
「七年前の劇のこと調べてたら ごめん」
「いいよ 沙弥香ならいいよ」
そんな話をしている二人を、侑は少し表情を曇らせて見ていました。
合宿のあらすじは以上です。
合宿篇では燈子に大きな心境の変化が訪れました。
・・・の、前に、沙弥香と燈子と侑の三人での一晩があります。
三人でのお風呂シーン。
「意外と、ある」
燈子が侑の胸を見て思った第一印象がこれって・・・(笑)
そして、三人で寝ているところもコマ割りがちょっと特殊で必見です。
三者三様で思うところありつつ、最終的に「三人でよかった」と眠りにつくところがまた、百合っぽくて良いですね。
そんなことがありつつの翌日、燈子にとっての衝撃的な真実。
「完璧な人」だと思っていた姉が、実は生徒会では「全く完璧でない人」だった。
追い打ちを掛けるように、市ケ谷さんの「似てないな」という言葉。
元々、完璧で皆から慕われる姉に憧れて、自分がそんな姉の代わりになろうと努力してきた燈子にとって、これはショックだったに違いありません。
脚本にあった少女の通り「自分はこれから誰になればいいのか?」という焦りのようなものが彼女の中には生まれたことでしょう。
その夜、生徒会の面々で花火をするのですけれど、ここでやっぱりそんな燈子の異変に気付くのは沙弥香なわけですよ。
親友と言えば恋愛においては負けフラグですけれど、こういう時にはやはり強い。
そんな二人の仲を嫉妬するような(当の本人は全くそんなことは思っていないけれども)目で侑は見ているわけで。
本人は否定するだろうけれど、侑はだんだんと燈子に対して心惹かれている様子。
3.合宿の終わりに
後半ラストです。
今回のラストは侑の気持ちがストレートになってきています。
以下、あらすじ
合宿の最終日の最後の練習。
燈子は自分のことのように描かれた脚本を、前日に聞いた姉の姿のショックからか、これまでになく感情的に演じてしまいます。
休憩中、燈子のことを心配する侑に沙弥香は言います。
「大丈夫よ 私がちゃんと見ておくから」
それを聞いて、侑は少し不機嫌になるのでした。
合宿が終わり、帰り道。
侑は自分の部屋に燈子を誘います。
「すごく甘えちゃうと思うんだけど 大丈夫?」
「いいですよ」
その言葉通り、燈子は侑に甘えます。
一通り甘えた後、燈子は侑に市ケ谷さんから聞いたことを話しました。
その話を聞き、侑は聞きました。
「誰かにならなきゃ駄目ですか?」
「駄目だよ」
燈子は続けます。
「侑は私のこと好きにならないでね?」
「私の嫌いなものを好きって言ってくる人のこと好きにならないでしょ?」
燈子との別れ際、侑は燈子の後ろ姿に
「ばーか」
と声を掛けました。
(じゃあ先輩だって)
(わたしの「」もののこと嫌いって言わないでよ)
そうして、「自分のことが嫌い」という燈子を思って、侑は思うのでした。
(あの人を変えたい)
四巻のラストはここまでになります。
三巻に引き続き、ラストでは侑がいよいよ気持ちが抑えられなくなってきています。
いや、抑えられないというよりは、心のどこかで認めざるを得なくなってきている感じでしょうか。
合宿最終日、燈子は市ケ谷さんの話を聞いて少女と同じように自分を見失ってしまい、感情的になってしまいます。
そこで休憩を提案し、休憩中に侑をけん制するような一言を放った沙弥香。
「大丈夫よ 私がちゃんと見ておくから」
沙弥香、合宿では侑をけん制というか侑を揺さぶるような良いポジションです。
侑も侑でそんな沙弥香に反応しているところ、嫉妬のようなそうでないような。
そして、侑は燈子の様子を気にしてか、それとも自分のそんな気持ちを抑えられずか、燈子を自分の部屋へ誘います。
そこで燈子さん。
「すごく甘えちゃうと思うんだけど 大丈夫?」
いや、ちょっと遠慮気味に言うところがまた可愛い。
侑の部屋で、二人はキスをしてお互いを確かめるように抱き合います。
燈子は、自分が誰になれば良いのか分からなくなったからこそ、侑に甘えたくなり、侑の優しさを求めているのでしょう。
一方の侑は、不安そうな燈子を慰めるためであり、燈子を諭すためであり、そして、きっと侑自身の感情に折り合いを付けるためにも、抱き締めたのでしょう。
これは・・・尊い。そう言わざるを得ない。
そしてラスト。
「私の嫌いなものを好きって言ってくる人のこと好きにならないでしょ?」
そう言った燈子との別れ際。侑の思い。
(じゃあ先輩だって)
(わたしの「」もののこと嫌いって言わないでよ)
「」のところは侑の燈子に対して言った「ばーか」という言葉で上書きされています。
いやもう、これ・・・あ~尊い。
こういうのは野暮ってもんですけど「好きな」しか入る言葉ないでしょうこれ。
侑ももう自分の気持ちにはすっかり気付いて、でも「ばーか」で上書きされているように、自分で押さえ付けているようなところが見えてくる感じです。
4.(個人的感想)いろいろ抱えた七海先輩がヒロインとして有能過ぎる
以下、個人的感想。
燈子がヒロインとして有能すぎる。
自分は無邪気に相手を振り回しつつ、その一方で悩みや苦しみを持っていて自分自身のことで手一杯で感情的になってしまう。
そんなヒロインに対して、その悩みとかを受け入れる優しさを持っている主人公の侑。
これだけでも構図として素晴らしい。
に加えて、燈子は「好きと言わない侑が好き」であり侑は「特別を感じられない」というちょっと歪な恋愛観。
これだけ見ると二人が上手く合致してやっていけそうだけれど、侑は「特別を感じたい」と思っており、現に徐々に燈子に惹かれているような様子。
なので、その実、二人は正反対の方向性を向いている。
つまり何が言いたいかと言うと・・・
やってることは正統派ヒロインの燈子だけれど、気持ちは歪で主人公の侑とは反対を向いているところが、ヒロインとしてレベルが高い。
ともすれば、ちょっとしたことで恋愛的に「どちらが追って、どちらが追われているのか」というところが反転しかねない危うさを持っている関係なところもまた・・・。
それが可能な二人の恋愛観と関係性ってのが良いですねー。
そして、誰よりも信頼できる上にライバルとして自分を高めてくれる親友の沙弥香がいるってのも燈子のヒロイン力が高いところです。
そうした親友がいるからこそ、侑は嫉妬したり不機嫌になったり、結果的に侑が燈子への気持ちを膨らませていく要因になっています。
・・・あれ? 侑、ヒロインなんじゃないかこれ?
見方を変えれば侑だってちょっと面倒なヒロインですねこれは。
ああ、だからこそ、どちらが追うか追われるかのような危うさを持った関係性が生まれているわけですか。
この関係性と燈子のヒロイン力があるからこそ、この素晴らしく尊い百合空間ができているのかと思うと、関係性や燈子の心を深読みしたくなってしまいますね。
まとめ買いもあるでよ